レッド由来ならダークレッドなのか、それとも見た目で決めるのか
レッド系から生まれた、見た目にはブラウンに見える個体を「ダークレッド」と呼ぶ投稿を見て、ずっと引っかかっていることがあります。
よく「これは遺伝の話です」と言われます。聞こえとしてはもっともらしいし、専門的にも感じます。けれど実際に何を根拠にその色を判断しているのかを見ていくと、どうにも違和感が残ります。
たとえば、見た目としてはブラウンに見える個体がいる。それでも「レッドから生まれているからダークレッド」と呼ばれることがある。ここに、かなり大きなズレがあると思っています。
見た目はブラウンなのに、なぜダークレッドになるのか
もしその個体がブラウンに見えるなら、まず表現型としてはブラウンです。そこに対して、レッド血統から出ているからダークレッドと呼ぶのであれば、それは遺伝子を直接見て判断しているわけではありません。
実際には、その個体の出自や背景、つまり「どこから生まれたか」という血統の物語を優先して名前を付けているだけです。
本来、遺伝子型と表現型と血統の由来は分けて考えるべきものです。中身としてどんな遺伝要素を持っているのかという話と、見た目として何色に見えるのかという話、さらにどの系統から出てきたかという話は、本来は別の層にあるはずです。
ところが実際の議論では、この三つが一気に混ざってしまう。レッド血統から出た、少し暗い、だからダークレッド。このように整理されてしまうと、遺伝の話をしているようで、実際には表現型と出自を混ぜたラベリングの話になってしまいます。
「遺伝」という言葉が便利すぎる
しかも厄介なのは、「遺伝」という言葉がとても便利なことです。遺伝と言ってしまえば、科学的で客観的で反論しにくい印象が出ます。でも、現実には遺伝子を直接確認しているわけではなく、見た目や交配結果から推測しているだけの場面がほとんどです。
推測すること自体は悪くありません。問題なのは、その推測を確定した事実のように扱い、さらに命名にまで使ってしまうことです。
たとえ話で考えてみると
見た目から遺伝を判断するというのは、たとえばこんな話に近いと思っています。
料理を食べて、「甘いから砂糖が多いレシピだ」と言う。
これも完全に間違いではありません。でも実際には、みりんかもしれないし、フルーツ由来かもしれないし、火入れで甘みが出ているのかもしれない。同じ“甘い”という結果でも、原因は一つではありません。
色の話もこれと同じで、見た目の結果から原因である遺伝を一つに決めてしまうと、本来あり得る複数の可能性を切り捨ててしまうことになります。
アンバーと呼んで販売しているショップもある
ここで見逃せないのが、「アンバー」という呼び方で販売しているショップもあることです。
私は、こちらのほうがむしろ見た目に忠実な整理ではないかと思っています。というのも、トップ画像の個体の見て、その色をどれだけの人が迷いなく「ダークレッドです」と答えるだろうか、と考えるからです。
実際、見る人や立場によっては、その色はダークレッドではなく、アンバー、あるいはブラウン寄りとして受け取られているわけです。
そうである以上、「レッドから生まれたからダークレッド」と言い切ることには無理があります。見た目の色としてはアンバーやブラウン寄りに見えるものを、由来がレッドだからという理由でダークレッドに寄せて呼ぶのは、客観的な色分けというより、血統(血筋)名を個体にそのまま重ねているだけに見えます。
別の色に置き換えると、この違和感は見えやすい
ここで一度、私が実際に扱った別の色の個体を使って、同じ構造を置き換えて考えてみてほしいと思います。

▲ 「ブルー系統から生まれた個体」
この個体、何色に見えますか?
実際にこの個体は、2025年に200数十頭のブルー系統の中でから、わずか3ペアほど生まれたものです。系統としては確かにブルー系です。
でも、見た目はどう見てもエメラルドグリーンです。
もしこれを「ブルー系から生まれたからダークブルー」と呼んで販売しているのを見たら、私はかなり違和感があります。
だから私は、この個体を
▶ 「ブルー系から生まれたエメラルドグリーン」
として販売しました。
そのほうが、見た目と背景の両方を、余計なすり替えをせずに伝えられると思ったからです。
血統背景があることと、色の呼び方は同じではない
ここでよくある反論として、「レッドからグリーンが出ることはおおよそない。だから遺伝背景は無視できない」というものがあります。
確かにその通りで、レッド系から生まれた個体にはレッド系としての背景があります。ただ、それと「その個体を何色として呼ぶか」は別の話です。
なお、ここで言う血統とは、あくまで由来や系統の話です。ところが実際には、「血統」という言葉が、ほぼその色しか出ない固定化されたもののような意味で使われている場面があります。
しかし、血統背景があることと、その表現しか出ないことは同じではありません。血統は由来を示す情報ではあっても、個体の見た目や色名を自動的に決めるものではないはずです。
レッド由来であることは説明になりますが、見た目がブラウンやアンバーに見える個体を、そのままダークレッドと呼ぶ理由にはならないと私は考えます。同じように、ブルー系から出たエメラルドグリーンを、ダークブルーと呼ぶ理由にもならないと私は考えます。
自然なのは、「レッド系由来のブラウン個体」や「ブルー系から生まれたエメラルドグリーン」と書くことです。この書き方なら、血統背景と表現型が分けてあります。違和感が出るのは、この二つを一つにしてしまって、「レッドから出たのだからダークレッド」「ブルーから出たのだからダークブルー」と名前まで固定してしまうところです。
なお、色の見え方そのものには、人がどの波長帯をどのように色として認識するかという別の問題もあります。とくにブルーは、この話をさらに難しくします。この点は今回の主題から少し外れるので、緑や赤として認識される波長の幅の話も含めて、あらためて別の記事で書こうと思っています。
実際には、遺伝ではなく表現型と出自で判断している
結局のところ、「遺伝で語る」と言いながら、その遺伝を何で判断しているのかと言えば、実際には表現型による部分が大きいのだと思います。
しかも表現型だけでなく、そこに血統の由来や作出の背景まで重なってくる。だから議論が曖昧になるし、言葉の使い方にもブレが出るのだと思います。
名前が単なる呼び分けではなくなると、見た目の色を言っているのか、由来まで含めた名前を言っているのかが曖昧になりやすいのです。
その状態で「遺伝」という言葉だけが前に出てしまうと、なおさら話は整理されにくくなります。
見た目から遺伝を推測すること自体は自然です。ただし、それはあくまで推測であって、命名を固定する根拠とは別の話です。
まとめ
以上を踏まえると、
ブラウンに見える個体をダークレッド、エメラルドグリーンに見える個体をダークブルーと呼ぶなら、それは遺伝の説明というより、「何と呼ぶか」の話に近いのではないかと思います。
少なくとも自分には、そう見えています。
そしてそのとき、本来は分けて考えるべき「見た目」「血統背景」「遺伝の推測」という三つの要素が、一つにまとめられたまま語られてしまいます。
今回書いた違和感は、その混ざり方に対するものです。
そして、もしそれを「遺伝の話」だと言うのであれば、本来必要なのはラベルではなく検証のはずです。
色を見ているのか、血統(血筋)名を見ているのか。
それとも、本当に遺伝を検証したうえで語っているのか。
違和感の正体は、たぶんその境目が曖昧になっていることにあります。
もちろん、ここは見方が分かれるところだと思いますし、異論があることも理解しています。
そのうえで私は、ニジイロクワガタの色を遺伝で確定させる立場には立っていません。
皆さんなら、このトップ画像の個体を何と呼びますか?
今回の話とかなり近い内容です。
気になった方は、こちらも読んでみてください。
