― 「青紋どこ?」と言われた個体から考える ―
青紋については、これまで何度か記事を書いてきました。
その中で私がずっと気になっていたのは、「青紋とは何を指しているのか」という問題です。
実際、以前の記事では次のように書きました。
もし青紋の面積が0%、10%、30%、60%のように連続的に分布しているとすれば、「どこからを青紋とするのか」という問題が出てくる。
当時は理屈として考えていたことでしたが、今回の羽化結果を見ていると、この問題は思っていた以上に重要なのかもしれないと感じています。
「青紋どこ?」と言われた個体

(↑ 一般的に言われる青紋から出現したローズピンク個体)
以前、青紋ライン由来でありながら、上翅はノーマル系の配色に見えるローズピンク個体を「青紋(ノーマル系配色)」として出品したことがあります。
その際、出品個体のリンクとともに、
「青紋どこでしょう?」
という趣旨のポストを見かけました。
正直なところ、その反応自体は理解できます。
一般的に青紋と聞くと、多くの方が思い浮かべるのは、
・上翅外縁に現れるブルーエッジ
・前胸の独特なマット感
・青~青緑方向へ発色する上翅
といった特徴を持つ個体だからです。
一方、その個体は上翅全体にローズピンクが強く現れていました。
上翅だけを見れば、「青紋ではないのでは?」と思われても不思議ではありません。
親は青紋同士だった

(↑ 両極個体が出現したラインの種親)
前提として、このローズピンク個体が出たペアは青紋同士で組んでいます。
種親は、私が青紋CBとして迎えた個体を累代したものです。写真では分かりにくいものの、♂にもブルーエッジが確認できていました。
そのため、【青紋 × ノーマル】ではなく、【青紋 × 青紋】として組んだペアになります。
また、青紋だけは他のカラー個体と羽化・ブリードのサイクルが異なるため、ブリード時に別ラインの個体が混ざる可能性は考えづらい状況で管理しています。
ラベルについても、簡単にはがれて分からなくなるような管理はしていません。もちろん、飼育者である以上、絶対にミスがないとは言い切れません。
ただ少なくとも私の認識としては、「青紋ライン同士の交配から得られた個体」として扱うのが最も自然な状況でした。
だからこそ、この親から生まれたローズピンク個体を単純に「ノーマル」と片付けることには違和感がありました。
上翅ではブルーエッジが見られないものの、前胸には青紋らしい独特のマットな質感がはっきり現れています。
少なくとも私の観察では、この前胸の特徴は、青紋ライン由来の個体として考える上で、一つの根拠になるのではないかと感じています。
もちろん、これだけで何かを証明できるわけではありません。しかし少なくとも、単純に「ノーマルが混ざっただけ」と考えるには説明しにくい点が残ります。
さらに仮に、私が青紋因子を持たない(非保因)のノーマル♂を誤ってペアリングしていたと仮定すると、青紋が単純な完全劣性形質であるなら、F1では青紋表現の個体は現れないことになります。
一方で今回の個体では、ローズピンクに振れた個体にも前胸には青紋らしい特徴が見られました。さらに同腹では、対照的に上翅全面がブルー方向へ強く発色した、いわゆる全面ブルータイプの個体も出現しています。
このことからも、「ノーマル♂が混ざっただけ」という説明だけでは、今回観察した特徴を十分に説明するのは難しいように感じています。
羽化結果から見えてきたこと

(↑ 同ラインで上翅全面ブルー個体とローズピンク個体 両極個体が出現)
そして今回、その同系統から再びローズピンク個体が現れました。
しかも同腹では、青方向へ発色した個体、ローズピンク方向へ発色した個体の両方が羽化しています。
同じ親、同じ飼育環境で育ったにもかかわらず、多くはブルー系とローズピンク系という両極の表現に分かれ、一部に中間的な個体も見られました。
このラインの羽化個体数は以下になります。
・ブルー系♂ 6頭
・中間色♂ 2頭
・ローズピンク系♂ 5頭
・ブルー系♀ 5頭
・中間色♀ 2頭
・ローズピンク系♀ 11頭
※左右で反射の出方が大きく異なるハーフリフレクション個体や、光の当たり方によってブルー、ローズピンク、イエロー反射の振れ幅が非常に大きい個体を、ここでは中間色として表現しています。
※今回は便宜上、「ブルー系」「中間色」「ローズピンク系」と分類していますが、これは発色傾向を整理するための便宜的な区分であり、明確な境界があることを意味するものではありません。
全38頭の幼虫を育て、うち7頭は幼虫期または蛹期に死亡しました。
羽化した31頭だけで遺伝様式を判断することはできません。
ただ、少なくとも今回の結果を見る限り、ブルー系とローズピンク系という両極の表現だけでなく、その中間的な個体も見られました。
そのため、今回の結果を見て改めて感じたのは、「何を青紋として数えるのか」という基準自体を整理する必要があるのではないか、ということでした。
このラインの特徴

(↑ 一般的に青紋として流通しているタイプの個体)
ここで少し誤解のないように書いておきます。
青紋と呼ばれる個体では、ローズピンクやイエロー、ゴールド系の反射が見られる個体は決して珍しくありません。
むしろ元祖・主流派と呼ばれる青紋系統では、そのような色彩を持つ個体も多かったように思います。
しかし今回のラインは少し傾向が異なります。
このラインで青く見える個体は、上翅全体が青~青緑方向へ発色し、イエローやローズピンクがほとんど差しません。
さらに上翅外縁にはブルーエッジが現れ、前胸には独特のマット感が出ます。
私がこのラインを面白いと感じているのは、この特徴が比較的安定して現れるからです。
そのため今回のローズピンク個体は、このラインの通常の発色傾向から見ると、かなり印象の異なる個体でした。
青紋らしい前胸の特徴を持ちながら、上翅では青方向ではなくローズピンク方向へ大きく振れた個体。
そこに、この個体の面白さがあると感じています。
青紋とは何なのか
今回の個体を見ると、前胸には青紋ラインらしい特徴が現れています。
しかし上翅には、青紋の象徴とも言えるブルーエッジが見られません。
ここで疑問がわきます。
この個体は青紋なのでしょうか。
それとも青紋ではないのでしょうか。
実は、この問いに明確な答えを出すことは意外と難しいように思います。
なぜなら、青紋を何によって定義するのかが、実はあまり整理されていないからです。
劣性遺伝を語る前に必要なこと
私は以前、青紋がメンデル型の劣性遺伝であると主張するのであれば、
まず青紋という形質そのものを定義する必要があるという記事を書きました。
例えば、
・ブルーエッジがあれば青紋なのか
・前胸のマット感も含めるのか
・上翅全体が青い個体は青紋なのか
・ローズピンク個体は青紋ではないのか
こうした基準が定まっていなければ、個体を分類すること自体ができません。
そして分類できなければ、分離比も計算できません。
つまり、何をもって青紋とするかが定義できていなければ、青紋が劣性遺伝であるかどうかを検証することもできないということになります。
今回の個体が示していること
今回のローズピンク個体は、青紋が劣性遺伝であることを否定する証拠ではありません。
逆に、青紋が劣性遺伝であることを証明する証拠でもありません。
ただ一つ言えるのは、“青紋という言葉の中に、私たちがまだ整理できていない複数の要素が含まれている可能性がある”ということです。
前胸の特徴、ブルーエッジ、上翅全体の発色。
これらが全て同じ要因で決まっているのか。あるいは別々の要因が関わっているのか。現時点では分かりません。
だからこそ私は、「青紋は劣性遺伝だ」 あるいは「青紋は劣性遺伝ではない」と結論を出すよりも、
まず「青紋とは何なのか」を整理することの方が先なのではないかと感じています。
あわせて読みたい
今回の記事では、「青紋とは何を指しているのか」という疑問を中心に整理してみました。
この話に興味を持っていただけた方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
ニジイロクワガタ 色の違い ≠ 色素の違い
ニジイロクワガタの色は色素ではなく構造色によって生じています。
なぜ同じラインから異なる色彩表現が現れるのか。
その背景を考えるための前提として書いた記事です。
なぜニジイロクワガタの“ブルー”は難しいのか
「青」と呼ぶ基準は、人によって意外と異なります。
ブルー、青紋、青系統という言葉を使うときに生じるズレや違和感について整理した記事です。
次回予告
今回の記事では、「青紋とは何を指すのか」という疑問について整理してみました。
実はこのラインからは、さらに興味深い個体も羽化しています。
前胸はほぼ左右対称なのに、上翅だけが左右でまったく異なる発色を示した個体です。
このような個体は、「個体全体で決まる特徴」と「上翅で局所的に現れる特徴」を分けて考えるヒントになるかもしれません。
次回は、この左右差個体をテーマに、発色がどのように決まっていくのか、そして体全体に共通する特徴と上翅で局所的に現れる特徴を分けて考えられないか、もう少し掘り下げて整理してみたいと思います。
