― 色素ではなく「構造」による発色という考え方 ―
ニジイロクワガタの上翅に見られる色の違いは、
赤・緑・青といった色素の違いによるものではなく、
主に微細な多層構造による光学的効果(構造色)として説明されています。
現在の理解では、
上翅表面には非常に薄いクチクラ層が何層も重なった
ナノスケールの多層構造が形成されており、
この構造が光と相互作用することで色が生じる
―いわゆる構造色(structural color)として説明されることが一般的です。

光がこの多層構造に当たると、
反射・干渉・回折といった光学的な現象が生じ、
その結果として、特定の波長域の光が相対的に強く反射されて見えるようになります。
つまり、ニジイロクワガタの色の違いは、
- 異なる色素を持っているかどうか
ではなく、 - 同じ構造を基盤としたまま、どの波長帯が相対的に強調されているか
という違いとして捉える方が自然だと感じています。
構造色と波長の関係について
可視光は物理的にはおよそ 380〜750nm の範囲にあり、
短波長側から
紫 → 青 → 緑 → 黄 → 橙 → 赤
の順に並びます。

ただし構造色の場合、
反射は単一の波長に鋭く集中することは少なく、
ある中心を持ちながら“幅をもった帯”として反射される
ことが一般的です。
そのため、
- 紫寄りに見える
- 青寄りに見える
- 光条件や角度によって色味が揺らぐ
といった現象が、ごく自然に起こります。
全体像:青は“点”ではなく“帯”で出る

ニジイロクワガタの構造色は、
レッド・グリーン・紫紺・ブルーといった
分断された色領域を持つわけではなく、
ひと続きの波長帯の中で、強調位置が少しずつずれている
状態だと考えています。
言い換えるなら、
青は独立した“点”として存在するのではなく、
連続した“帯”の端に現れる一部
という位置づけになります。
「青だけが別枠で存在する」
というよりも、
連続分布の中で“短波長側に寄った結果、青く見える”
と捉える方が自然です。
グリーン系(標準〜明緑)|構造色の“基準帯”
※波長帯の位置関係を直感的に示すための模式図です。

ニジイロクワガタで最も一般的に見られるのが、
いわゆるグリーン系の発色です。
構造的には、
- 層間隔が中程度
- 配列が比較的均一
といった状態に近く、
主に 495〜570nm(緑)付近 の波長帯が
強調されて反射しているように見えます。
光源や観察角度が変わっても
色味が大きく崩れにくいことから、
構造色を考えるうえでの“基準点”
として捉えやすい発色だと感じています。
レッド系(赤〜銅色)|長波長側に寄った帯
赤みや銅色のニュアンスが強い個体は、
一般にレッド系として扱われることが多いように思います。
構造的には、
- 層間隔がやや広く
- 反射ピークが 620〜750nm(赤)側 に寄っている
状態と考えることができます。
赤銅色やワインレッドのような深みのある色調は、
連続帯の“長波長側”に寄った結果として生じている
と整理できそうです。
紫紺系(しこん)|短波長側に寄った“暗色帯”
暗く、落ち着いた色調を示す個体は、
紫紺系として流通・販売されることが多くあります。
ただし実際に観察すると、
「紺色」というよりも
紫〜赤紫に近い印象を受ける個体が多い
のが実情です。
構造色として整理すると、
現在「紫紺」と呼ばれている個体群の多くは、
380〜430nm(紫〜短波長青)付近の反射寄与が相対的に強い
位置にあると考える方が自然です。
この帯域は人の視覚感度が低いため、
- 暗所では黒っぽく沈み
- 強い光が当たると紫〜赤紫が浮かび上がる
といった見え方になりやすい特徴があります。
ブルー系に見える個体(瑠璃花)|帯の“さらに端”
瑠璃花として管理している個体は、
紫紺系と比べると、
見え方の位置がもう一段階“短波長側”に寄っている
ように感じています。
これらの個体では、
- 430〜460nm 付近 の波長帯が
相対的に強調されており、 - 紫寄りの成分が抜け、
深い青の印象として知覚されやすい
状態にあります。
※物理的にはこの帯域は「藍」に相当しますが、
人の視覚認知では青として捉えられやすいため、
本記事では見た目の印象を優先して「深い青」と表現しています。
ここで重要なのは、
瑠璃花が「独立した青構造」を持っているわけではない
という点です。
つまり、瑠璃花は“例外的な青”ではなく、
連続する構造色スペクトルの中で端に位置づけられる発色
と捉えることができます。

まとめ|色は“別物”ではなく、“連続するズレ”
ニジイロクワガタの上翅に見られる色の違いは、
それぞれがまったく異なる色構造を持っているというよりも、
同一の多層構造の中で、
どの波長帯が相対的に強調されているか
という“連続的なズレ”
として現れているように感じられます。
主反射波長は段階的に切り替わるものではなく、
層間隔や配列のわずかな違いによって、
反射されやすい波長帯が少しずつ滑らかに移動している
と考える方が自然です。
そのため、
レッド
グリーン
紫紺
ブルー
といった呼び方も、
明確に分断された区分というより、
連続する構造色を人の目で整理した“便宜的なラベル”
として捉えています。
次回は、
見えたブルーをそのまま並べ、
同系統・別サイズ個体での
見え方の違いを記録してみます。
