本記事の内容は、ニジイロクワガタにおける「固定」という考え方を整理した記事
ニジイロクワガタにおける『固定』という考え方」の補足資料としてまとめています。

記事の位置づけ

ニジイロクワガタの色や「固定」という言葉を考えるうえで、
背景となる学術的知見を整理するための参考文献まとめです。

ニジイロクワガタ(Phalacrognathus muelleri)そのものを直接対象とした研究は限られているため、
構造色一般、昆虫クチクラ、量的形質、比較生物学といった周辺分野の文献を中心に紹介しています。

1.構造色とは何か(色素との違い)

構造色の基本概念

Kinoshita, S., & Yoshioka, S.(2005)
Structural Colors in Nature: The Role of Regularity and Irregularity in the Structure.
Progress in Optics, Vol.46, pp.1–49.

  • 構造色は色素による発色ではなく
    微細構造による光の干渉・反射によって生じる
  • 構造の「規則性」と「乱れ」が、色の幅や揺らぎを生む

▶ ニジイロクワガタの色が
「オン・オフ的に固定されにくい」前提を理解するための総説

2.構造色はなぜ個体差が出るのか

生物における光学構造のばらつき

Vukusic, P., & Sambles, J. R.(2003)
Photonic structures in biology.
Nature, 424, 852–855.

  • 生物の構造色は理想的な周期構造ではなく
    ある程度の不均一性を含む
  • この不均一性が
    ・個体差
    ・角度依存
    ・条件差
    を生む要因になる

▶ 同腹でも色味に幅が出る理由の物理的背景

3.昆虫のクチクラ形成と発色のタイミング

クチクラはいつ・どう作られるのか

Neville, A. C.(1975)
Biology of the Arthropod Cuticle.
Springer-Verlag.

  • 昆虫のクチクラ構造は
    蛹期〜羽化直後に形成される
  • 硬化後は基本的に不可逆
  • 層構造は形成時の環境条件や成長速度の影響を受ける


▶「色が決まるのは蛹期〜羽化時のみ」という整理の根拠

4.発生・環境と構造色の関係(比較生物学)

発生条件が構造色に影響する例

Doucet, S. M. et al.(2006)
Structural plumage coloration in birds: The role of development and condition.
The American Naturalist, 167(1), 88–102.

  • 鳥類の構造色において
    ・栄養状態
    ・成長過程
    が色の強度・波長に影響
  • 構造色は
    遺伝だけで完結しない形質であることを示す

▶ 昆虫にも応用可能な「発生×構造色」の考え方

5.「固定」という言葉と量的形質

育種学における固定概念

Falconer, D. S., & Mackay, T. F. C.(1996)
Introduction to Quantitative Genetics(第4版).
Longman.

  • 固定が成立しやすいのは
    単一遺伝子・明確な表現型
  • 連続的に変化する量的形質では
    固定は「傾向」や「分布」として扱われる


▶ ニジイロクワガタの色を
「相対的・傾向的に捉える」立場の学術的背景

6.海外文脈における構造色の扱い

「true breeding color」が使われにくい理由

Prum, R. O.(2006)
Anatomy, physics, and evolution of avian structural colors.
Journal of Experimental Biology, 209, 748–765.

  • 構造色は
    developmentally variable trait(発生依存形質)
  • 固定色として断定するより
    variation や tendency として記述される

▶ 海外で「固定色」という表現が慎重な理由

7.まとめ

ニジイロクワガタの色について語られる「固定」という言葉は、
構造色という仕組みを前提にすると、
絶対的な意味では成立しにくい概念であることがわかります。

本記事で挙げた文献は、
色を断定するための材料ではなく、
「なぜ断定しにくいのか」を理解するための補助線として位置づけています。