― 前胸光沢という「連続量」をどう捉えるか ―
ニジイロクワガタの前胸が、
鏡のように強く光沢を放つ個体。
日本では長年にわたり、
本家由来の名称として認識される場合もある
「ピカール」という呼び名が、
前胸の強い光沢を示す個体に対して用いられてきました。
一方で近年では、
海外で一般的に使われている
“Full Metal” という表現も知られるようになっています。
呼び名の違いはさておき、
ここで一度、
もっと根本的な問いを立ててみたいと思います。
前胸の強い光沢は、固定形質なのでしょうか。
光沢は「出る/出ない」で語れるものか
固定形質と聞くと、多くの場合、
- 出る/出ない
- ある/ない
といった、
二値的な形質を思い浮かべます。
しかし、前胸の光沢を観察していると、
- やや光る
- かなり光る
- 鏡面のように強く光る
といった具合に、
明確な中間段階が存在することに気づきます。
この時点で、
前胸光沢は
「あるか、ないか」
ではなく、
どの程度強いか
という、
連続量として振る舞っている
と考える方が自然です。
光沢は色と同じく「構造の結果」
前胸の強い光沢も、
基本的には色と同様、
- 表皮構造
- 表面の平滑性
- 微細な凹凸の少なさ
といった要因が重なった結果として
生じていると考えられます。
つまり、
「光る遺伝子がある」
というよりは、
光りやすい構造が、どの程度そろったか
という問題です。
この点は、
これまで整理してきた
青紋を構造色として捉える考え方と、
とてもよく似ています。
なぜ「ピカールは固定」と感じられるのか
それでもなお、
「ピカールは固定されているのではないか」
と感じる人が多いのも、
不思議なことではありません。
その理由のひとつは、
- 強光沢個体は印象が非常に強い
- 写真でも差が分かりやすい
- 並べると一目で区別できる
という、
視覚的なインパクトの大きさにあります。
結果として、
ある閾値を超えた光沢を持つ個体だけが
名前を与えられ、
それより弱い光沢の個体は
「ノーマル」として一括される。
こうして、
本来は連続的な現象が、
あたかもON / OFFのように整理されていく
ことになります。
固定と呼ぶ前に、何を見ているのか
ここで大切なのは、
「固定か、固定でないか」
を急いで決めることではありません。
それよりも、
- どんな構造が
- どの程度そろった結果
- そう見えているのか
を観察することです。
前胸光沢もまた、
固定された性質
というよりは、
連続的に変化しうる表現の一地点
として捉える方が、
現象そのものに近いように感じます。
青紋と光沢は、同じ地平にある
青紋と前胸光沢。
一見すると別の話題ですが、
両者は共通して、
- 連続量であること
- 閾値で名前が付けられていること
- 固定という言葉が当てはめられやすいこと
という特徴を持っています。
だからこそ、
フェーズ2では、
「固定」という言葉をどう使うか
を、
色ではなく光沢という題材で、
もう一度考えてみたいと思います。
次回予告(フェーズ2・第3話)
なぜ人は、
本来は連続的な現象を
「固定」と呼びたくなるのでしょうか。
前胸の強い光沢を、
「ある/ない」「名乗れる/名乗れない」
という言葉で分けようとすると、
どこか無理が生じます。
次回は、
光沢そのものを「連続量」として捉えたとき、
何が見えてくるのか。
ピカールでも、フルメタルでも語りきれない
「光り方の幅」をどう考えるかを整理します。
