― ヘテロ・潜性遺伝という言葉に感じた違和感 ―
二ジイロクワガタの色について語るとき、
青紋は、ニジイロクワガタの中では比較的安定して現れやすい“現象”として扱われます。
「青紋は遺伝する」
「固定できている」
「潜性(劣性)形質ではないか」
SNSやブログでも、こうした説明を見かけたことがある方は多いと思います。
一見すると、どれも筋が通っているように見えます。
ただ、観察を重ねるうちに、私は少しずつ「ん?」という違和感を覚えるようになりました。
説明としては分かる。けれど、何かがうまく噛み合っていない。
この記事は、その“噛み合わなさ”をいったん言葉にしてみる試みです。
(※この違和感の背景にある「固定」という言葉の前提については、
▶ ニジイロクワガタにおける「固定」という考え方
で整理しています)
まず最初に、この記事の中で使う言葉について、簡単に整理しておきます。
青紋について語られるとき、
ヘテロ(ヘテロ接合)
潜性(劣性)遺伝
固定形質
といった言葉が使われることがあります。
これらは本来、「単一の遺伝子で決まる形質」を説明するための言葉として使われるものです。
たとえば「ヘテロ」とは、ある形質について、異なる遺伝情報を持っている状態を指します。
こうした言葉自体が間違っている、という話ではありません。
ただ、「どんな前提の形質に使う言葉なのか」を、少し意識しておく必要がある。
私はそう感じています。
この前提を頭の片隅に置いた上で、よく語られる青紋の説明を、あらためて見てみたいと思います。
「説明としては分かる」けれど、何かが合わない
たとえば、よくある説明です。
青紋 × ノーマル
→ F1では青紋は出ない
→ F2で一部の個体に青紋が出る
よって青紋は潜性(劣性)遺伝ではないか
メンデル遺伝の図式に当てはめると、とても分かりやすい説明です。
私も最初は、「なるほど」と思いました。
ただ、この説明をそのまま受け取ると、いくつか引っかかる点が出てきます。
青紋は「出る/出ない」だけの形質だろうか
実際の青紋を見ていると、
- 紋の大きさが違う
- 青の深さが違う
- 紫寄りに見えるものがある
同じ親から出た個体なのに、並べてみると明らかに印象が違うこともあります。
もし青紋が、
- 単一遺伝子で決まる
- ON / OFF が明確な
- 固定形質
であれば、
ここまで連続的な違いが出るのだろうか
という疑問が残ります。
もちろん、観察の条件によって印象が変わることもあります。
それでも、「出た/出ない」だけで割り切ってしまうには、青紋は少し揺れが大きい。
私は今のところ、そう感じています。
(この「揺れ」については、
▶ なぜ青は出たり、出なかったりするのか
でも別の角度から整理しています)
「潜性遺伝に見える」ことと「潜性遺伝である」こと
F1で出ず、F2で出る。
このパターンは確かに潜性遺伝のように見えます。
しかし、
- 構造色
- 多因子
- 発生過程や環境の影響
が関与する形質では、
「条件が揃ったときだけ、目に見える形で現れる」
ということが普通に起こります。
つまり、潜性遺伝「に見える」ことと、潜性遺伝「である」ことは、必ずしも同じではありません。
ここを一度分けて考えないと、話がどんどん単純化していく気がします。
私が引っかかっていたのは、たぶんこの部分です。
そもそも、色は何で決まっているのか
そもそも、ニジイロクワガタの色は何によって決まっているのか。
その前提を整理したものが、
▶ ニジイロクワガタの発色を決める要素
です。
ニジイロクワガタの色は、
- 色素そのものではなく
- クチクラ内部の微細な構造による「構造色」
だと考えられています。
構造色の場合、
- わずかな層の厚み
- 配列の揃い方
- 乱れの入り方
によって、
見える色は連続的に変化します。
この前提に立つと、青紋も、
「色が遺伝している」のではなく、
「青方向に見えやすい構造が、ある条件下で現れている」
と考える方が自然に感じられます。
“遺伝していない”と言いたいわけではありません。
ただ、「メンデル遺伝の図式で説明できる」と言い切ってしまうのは、少し急ぎすぎる気がしてならないのです。
違和感の正体
私が感じた違和感は、「誰かの説明が間違っている」というものではありません。
それは、
固定形質を説明するための言葉を、構造色の現象にそのまま当てはめている
ところにありました。
ヘテロ/潜性遺伝/固定。
これらは本来、前提がはっきりした形質に使われる言葉です。
青紋という現象が、その前提に本当に合っているのか。
そこを一度立ち止まって考えてみたい。
それがこの記事の目的です。
青紋は、ニジイロクワガタの中でも比較的再現性が高く、観察しやすい現象です。
だからこそ、
固定形質と誤解されやすく、
メンデル遺伝の枠組みがそのまま当てはめられやすいのだと思います。
しかし実際に起きているのは、
構造色 × 多因子 × 発生過程 × 時間
が重なり合った結果として、
「そのとき、そう見えている」――
それを私は、今は“現象”として受け止めています。
もしこの前提に立つなら、次に考えるべきなのは、
- なぜ同じ系統でも、青が出たり出なかったりするのか
- なぜ青が深まったり、逆に緑寄りに見えたりするのか
という点になります。
次回は、
ニジイロクワガタの色を「構造色」そのものとして見たとき、
何が起きているのかを、もう一段具体的に整理してみたいと思います。
※本記事で使っている用語については、
こちらのページで整理しています。
→ 用語整理ページ
この記事では、
「青紋は固定形質なのか?」という問いに対して、
即答を出すのではなく、
なぜそう説明したくなるのか、
その前提にある違和感を整理してきました。
もし、
「では、青紋はどう捉えればいいのか」
という点に興味がある方は、
次の記事もあわせて読んでみてください。
▼ 青紋は「固定」ではなく「安定した起点」
