― 他の生物との比較と、海外での捉え方 ―
ニジイロクワガタの色について見ていくと、
「この色は固定されているのか?」
という言葉を目にすることがあります。
ただし、この「固定」という言葉は、
ブリーダーや愛好家のあいだでも解釈が分かれやすく、
使い方によって受け取られ方が大きく変わる言葉でもあります。
そこでこの記事では、
ニジイロクワガタを他の飼育生物と比較しながら、
私自身がどのように「固定」という言葉を捉えているかを、
あらためて整理してみたいと思います。
一般に言われる「固定」とは何か
育種の文脈で「固定」という言葉が使われる場合、
多くは次のような状態を指します。
- 特定の表現型が
- 高い確率で
- 次世代以降にも繰り返し現れる
そのためには、
- 累代
- 選別
- 検証
といった積み重ねが前提になります。
この考え方自体は、
多くの生き物に共通する、いわば基本的な枠組みです。
メダカやシュリンプの場合
メダカや観賞用シュリンプでは、
色は主に色素細胞の種類や配置によって決まります。
そのため、
- この色が出る
- この色は出ない
といった形で整理しやすく、
「この色は固定されている」と表現される系統も多く存在します。
もちろん、環境の影響がまったく無いわけではありませんが、
発色の土台が色素である以上、
再現性の高いブリードが成立しやすい、という特徴があります。
| 観点 | 色虫 | メダカ・シュリンプ |
|---|---|---|
| 色の正体 | 構造色(物理) | 色素(生理) |
| 色が決まる時期 | 蛹期〜羽化時のみ | 生涯を通じて |
| 可逆性 | ほぼ不可逆 | 可逆・変動 |
| 固定の意味 | 非常に限定的 | 実用的に成立 |
ニジイロクワガタの場合
一方で、ニジイロクワガタの発色は、
色素ではなく構造色によるものです。
クチクラ内部に形成される層構造が、
光をどう反射するかによって、
青・緑・赤といった色が「見えている」状態になります。
そのため、
- 遺伝的な背景
- 蛹期から羽化にかけての環境
- 栄養状態や成長スピード
といった要因が重なり合い、
最終的な色味が決まります。
同じ親から生まれた個体であっても、
見え方に幅が出るのは、
この構造色ならではの性質によるものです。
同じ「色」でも、前提が違う

メダカやシュリンプとニジイロクワガタは、
どちらも「色」を楽しむ飼育対象ですが、
- 色素による発色
- 構造による反射
という点で、
色の成り立ちそのものが異なります。
この違いを踏まえると、
メダカやシュリンプと同じ感覚で、
ニジイロクワガタの色を
「固定/非固定」で語ることには、
どうしても無理があるように感じられます。
海外における構造色と「固定」という概念
正直に言えば、
私自身も、いろいろと調べ始める前までは、
SNSなどで見聞きする情報から、
「累代を重ねれば、色は固定できるものなのだろう」
「ここまで揃っているなら、固定と言っていいのではないか」
と、どこかで思っていた部分がありました。
ただ一方で、
「固定」という言葉そのものを使うことには、
以前からどこか違和感も覚えていました。
海外のブリーダーや研究寄りの文脈に触れていく中で、
その違和感が、少しずつ言葉になっていきました。
海外では、
ニジイロクワガタのような構造色をもつ昆虫に対して、
「固定された色」
「true breeding color」
といった表現は、ほとんど用いられていません。
代わりに使われるのは、
- この系統は○○寄りに見えやすい
- ○○反射が強い傾向がある
- 同条件下では比較的安定している
といった、条件付き・傾向的な表現です。
そこでは、
色味そのものを断定するよりも、
- どういう方向に振れやすいか
- 条件によって、どう変わるか
が共有されます。
つまり、
構造色の「色味」を
固定された結果として扱う、
という発想自体が、
あまり前提として存在していないのです。
海外の捉え方が正しい、というつもりはありません。
ただ、構造色という仕組みを前提にしたとき、
「固定」という言葉が慎重に扱われている理由は、
とても納得のいくものだと感じています。
私自身の捉え方
以上を踏まえ、
私自身はニジイロクワガタにおける「固定」を、
- 絶対的な意味での固定
ではなく - 相対的・傾向的な表現
として捉えています。
つまり、
- この系統はこの色域に寄りやすい
- この見え方が出やすい
といった方向性を共有するための言葉であり、
「必ず同じ色になる」という保証を意味するものではありません。
おわりに
「固定」という言葉は便利ですが、
前提条件を共有しないまま使うと、
誤解を生みやすい言葉でもあります。
ニジイロクワガタの色は、
- 遺伝
- 発生
- 環境
が重なり合った結果として、
その都度「見える」ものです。
その特性を理解したうえで、
色の違いをどう捉え、どう言葉にするのか。
私はその過程も含めて、
ニジイロクワガタ飼育の面白さだと考えています。
▼以下の記事は、「ニジイロクワガタにおける固定という考え方について」の補足として、
なぜ固定されているように見えるのかという体感的な部分を整理したものです。
▼「ニジイロクワガタにおける『固定』という考え方」の参考資料
