ニジイロクワガタの発色を決める要素は、ひとつの原因ではなく、いくつかの要因が重なって最終的な「見えた色」として現れます。
整理すると、次の 4つの要素と考えられています。

1. クチクラの多層構造(=構造色の土台)

ニニジイロクワガタの色は、塗料のような色素によるものではなく、
クチクラ(外骨格)の内部、特に表層付近に存在するナノレベルの多層構造によって生じる
構造色(structural colour)が基盤になっています。

甲虫類では、クチクラ中に屈折率の異なる層が規則的に重なった多層干渉構造が存在し、
その層の光学的な厚み(層間隔)によって、強く反射される波長が変化することが知られています
(Seago et al., 2009;Stavenga et al., 2011)。

一般に、

層の間隔が比較的狭い場合:短波長側が強く反射され、青〜紫寄りに見える
層の間隔が比較的広い場合:長波長側が反射され、緑〜赤寄りに見える

といった関係が、多層干渉モデル(Bragg 条件)から説明されます
(Parker, 2000;Vigneron et al., 2006)。

また、層の規則性や均一性は、反射ピークの鋭さや散乱の程度に影響し、
結果として色の「鮮やかさ」や「深み」に関与すると考えられています
(Bermúdez-Ureña et al., 2020)。

この多層構造がなければ、ニジイロクワガタのあの色は立ち上がってきません。
発色を考えるとき、まずここから話を始める必要があるように感じています。

2.遺伝要因(構造の“なりやすさ”)

ニニジイロクワガタの発色において、遺伝は
「最終的に何色になるか」を直接決定するというよりも、
どのようなクチクラ多層構造を形成しやすいかという“傾向”に関与していると考えられます。

甲虫の構造色に関する研究では、色そのものが単純な一遺伝子形質として固定されるのではなく、
クチクラ形成過程や層構造の発達に影響する遺伝的背景と、
発生・環境条件との相互作用によって最終的な色調が現れることが示唆されています
(Seago et al., 2009;Bermúdez-Ureña et al., 2020)。

そのため、

同じ系統内でも色の幅が生じる
グリーン系からブルーや紫紺に見える個体が現れる
累代を重ねても色が完全には揃わない

といった現象が起こり得ます。

遺伝は、完成した色をそのまま指定する設計図というより、
どんな構造に向かいやすいかという「癖」や「傾き」を与えているように見えます。
構造色を観察していると、その捉え方のほうが実際の揺らぎと噛み合う場面が多いと感じます。

3.飼育環境(構造が“どう作られたか”)

蛹ニジイロクワガタのクチクラ多層構造は、
蛹期から羽化直後、外骨格が形成・硬化する比較的短い期間に集中的に作られると考えられています。
こニジイロクワガタのクチクラ多層構造は、
蛹期から羽化直後、外骨格が形成・硬化する比較的短い期間に集中的に作られると考えられています。
この過程では、クチクラ層の形成速度や配列の精度が、周囲の環境条件の影響を受ける可能性が示唆されています
(Neville, 1975;Seago et al., 2009)。

特に影響因子として想定されるのは、

温度
湿度
栄養状態
成長スピード(早熟・遅熟)

などです。

一般論として、やや厳しめの環境条件ではクチクラ形成が急速かつタイトになり、
結果として層構造が締まり、短波長側(青〜紫寄り)が強調されやすくなる可能性があります。
一方、温湿度が安定し栄養が十分な条件では、層構造が比較的ゆったり形成され、
緑〜赤寄りの反射特性を示す場合もあると考えられます
(Parker, 2000;Bermúdez-Ureña et al., 2020)。

同じ親、同じ系統であっても色が揃わない理由を考えると、
この発生過程と環境の影響は、やはり無視できない要素として浮かび上がってきます。

4.観察条件(「何色に見えるか」)

構造色は、色素による発色とは異なり、
光の入射角や観察角度によって反射波長が変化するという性質を持っています。
そのため、同じ個体であっても、光源の位置や見る角度、周囲の背景条件によって、
見え方が大きく変わることが知られています
(Parker, 2000;Gruson et al., 2019)。

実際には、

ある角度では青く見える
角度が変わると紫紺寄りに見える
拡散光下では緑味を帯びて感じられる

といった現象が一つの個体の中で共存します。
このような角度依存性(イリデッセンス)は、
多層干渉構造による構造色の本質的な特徴です
(Stavenga et al., 2011)。

実際に見えた色が、その個体の構造や遺伝的背景を
そのまま一対一で示しているとは限りません。
観察していると、そのズレを感じる場面は少なくありません。

構造色を見ていると、
「その瞬間にどう見えたか」と「固定された形質として何があるか」を
分けて考えないと、話が噛み合わなくなることがあります。

まとめ

ニジイロクワガタの色づくりは、目の前の光と色の交差点のようなものだと思います。
遺伝、構造、環境、そして観察条件……
どれかひとつだけでは説明できない、光と出会った瞬間の“色”がそこにあるように感じます。

遺伝だけで色が決まるわけでもなく、
環境条件だけを整えれば同じ色が再現できるわけでもありません。

そのため、同じ親から生まれた個体であっても色味には幅が生じ、
できる限り条件を揃えたつもりでも、
まったく同じ色を繰り返し作ることは難しくなります。

それでも、目の前に現れたその色は、
その個体が、その環境で、その時間を経てきた結果です。
偶然や揺らぎも含めて、そこにしか存在しない一つの状態だと言えるでしょう。

このブログでは、
「固定できる色」や「再現性の高さ」よりも、
そのとき確かに見えた色を大切にしながら、
飼育の過程で起きたこと、感じたことを記録していきます。

再現が難しいからこそ、
目の前にいるその個体にしかない状態がある。
うまく揃わないことも含めて、その揺らぎごと観察していくのが、
自分にとってのニジイロクワガタ飼育なのだと思っています。

※本記事で使用している用語については、別ページで整理しています。
こちらをご参照ください。
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